もう 少し細かな記憶が薄れ始めて、何処から話そうかと写真を探した。
あの丘を越えたら崖を下って湖畔の方に行くのよと、ジャスミンが教えてくれた。
地面にところどころ白く見えるのはプーマなどに襲われたであろう羊達の記憶の跡だ。
次の日3人で猟りをした帰り道、ケネッツの運転するギシギシと小刻みに揺れるトラックの中、歌い出した二人の声は、言葉の解らない僕にも愁いを帯び、ドアのきしみと共に車の中に何かが重く溢れてきた。
旅人だが一瞬深くここの事に、彼らの生活に触れる事が出来た気がする。
今晩はここを使ってと案内の彼女は部屋を出て行ったが、寝袋を上手く使えば良いかと僕は荷物をとりに車に向った。今夜はクリスマスイブ、夕食に招かれて一人でなくてよかった。(2009年12月27日にも載せてある)
夜も遅くなって部屋に戻ろうとした時、寒いだろうからと彼女が持って来てくれた夜具、素朴で素敵な生地の上にライフルの薬莢と赤と緑色のキャンディがあった。
朝になって窓辺のろうそくもすっかり消えて、古く薄いガラスの向こうにはパタゴニアのいつもの朝が、青の鮮やかな湖と白い氷河の山並が在った。